桜並木 1

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いや、違う。 「綺麗…だな」 「うん、凄く」 きっと彼女の隣にいるから感じる感情。 まるで白黒だった世界に色を付けたよう鮮やかに映る。 でも… 「俺は散るものはあまり好きじゃないな」 儚くもろい姿。 まるで春香を見てる様で心に穴が開いていく。 一番嫌いなのは春に咲く満開の桜だ。 ほんの一瞬、自分を輝かせ自らの存在を記憶に残させるように咲いた後… 何も無かったかの如く桃色の衣を落とし、次の時まで静かに眠る。 「私は凄く好きよ」 うっすら笑顔を浮かべながら春香は再び窓へ近付いていった。 また無理しないように夏輝も側へ寄ると、一枚だけ所々青さが残るイチョウが窓をすり抜け床へ落ちる。 「まるで夏輝みたいで好きだわ」 優しく拾い上げると守るかのように両手で囲い始めていく。 俺みたい…? 「散るものはとても強いのよ」 普通に見たら弱々しく見えるのかもしれない。 だが、毎年必ず同じ葉を…そして花を身に纏う。 冬の寒さ、夏の暑い厳しさにも負けず変わらない姿で凛と立つ。 これを強さと言わず何と言うのだろうか 「俺はイチョウか?」 くすっと笑いながら「じゃあ私は桜ね」と柔らかい顔をした春香。 あなたが休む間の春と夏は桜がイチョウの姿を守るように隠すわ。 だから秋になったら私を守ってね そして冬は肩を並べて一緒に眠りましょう。 時には守り守られ… お互いに疲れてしまったら寄り添うように眠る。 そして疲れが癒えたら再び守り合う。 淡々と延べられていく声に、どことなく違和感を覚えながら夏輝はやっぱりと気付いてしまった。
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