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顔を変えた。
人生が変わる。
ブスだった私が、過去になる。
鏡を覗き込んだ私は、今までとはよほど別人の自分の顔を眺めながら、思わずニヤついていた。
歩邑あかり。
「ふむらあかり」と読む私の名前。
40歳になるこの年まで、ちゃんとその名前で呼ばれたことはない。
子どもの頃には「ヘビデブ」と呼ばれ、学生時代には誰にも名前を呼んでもらえず、社会に出てからは「ほむらさん」と間違ったままで呼ばれている。
ヘビデブは、ヘビ顔のデブって意味。
名前を呼んでもらえなかったのは、同級生たちからずっと無視されていたから。
名前を間違って呼ばれているのは、引っ込み思案な私が「読み方が違います」って言えないから。
説明すると、涙が出てくる。
まさか暗黒時代が40歳まで続くとは思っていなかった。
もう嫌だ、
もう嫌だ。
悪いのは全部、私の外見のせい。
…でも、外見はいくらでも変えられる。
そのことに気がついた私は、一人さみしく過ごすであろう老後のために貯めていた貯金をはたき、外見を改造することにした。
まずは、80キロあった体重を、65キロまで落とした。
身長156センチの私が65キロというと、世間ではまだまだ太っている部類に入るが、80キロあった私にとっての65キロは、それで十分な気がした。
その後、何のためらいもなく、整形した。
プチなどではない。
がっちり整形。
いや、改造。
というより、魔法。
手術が終わった私の顔はもう「ヘビデブ」ではなかった。
「可愛い…」
少なくとも私にはそう見えた。
離れていた細い目が、ぱっちり二重に。
穴しか開いてないんじゃないかと思うほど低い鼻が、ツンと高く。
黒糖かりんとうみたいだった唇が、ぽってりつややかに。
飛び出た頬骨とエラも、許容範囲内に落ち着いている。
「これで別人になれる…」
そう思うと私の両目からは、最後の膿を出しきるかのように、涙があふれ出てきていた。
数日後。
長期休暇をもらっていた会社に復帰する日がやってきた。
別人になりたいのなら、職も変えるべきだと思ったが、このご時世、40歳で何のスキルもない私が新しい仕事を探すのは容易ではなく、とりあえず元の職場に戻ることにした。
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