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お店を開けて30分程経った頃、カランコロンと、もはやこの店のアイデンティティである鐘が鳴りました。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
薄いピンクのコートを羽織った綺麗なお嬢さんは、カウンターの、僕が立つ場所の真ん前に座りました。
確か、三度目のご来店です。
「ブレンド、お願いします」
グロスで濡れた唇がゆったりと笑い「かしこまりました」と頭を下げながら、そのグロスがカップの縁と珈琲の表面に光る様を思い浮かべて、ちょっとため息が漏れました。
「いらっしゃいませ」
双子の兄、蓮君が慎重にお冷やを置き、お客様を観察し始めました。
双子の妹、凛さんもカウンターの内側に戻り、僕の横にピッタリと寄り添ってお客様を眺めています。
「凛さん、すみません。ちょっと」
「ごめんなさい」
今度は僕の後方に回って、シャツの端をつかみます。
いえ、凛さん。そうではなくて。
くすりとお客様が口元を押さえて笑いました。
「可愛らしいわね」
「申し訳ありません、落ち着きがなくて」
「ふふ。貴方とゆっくり話したいのに、いつもこの子達が見張ってるんだもの」
ざっと、双子の空気が剣呑な物にかわりました。
陶器のように滑らかな肌、通った鼻筋、形のよい唇、黒曜石のごとく煌めく四つの瞳に、手加減のない怒りが浮かぶ様は、大変な迫力があります。
僕は焦りながらブレンド珈琲をお出ししました。「お待たせ致しました」
お客様は頬杖をついて、細めた瞳で僕を見つめています。
「私ね、貴方が気に入ったの」
双子の熱視線が、お客様を焼き尽くしてしまいそうです。
僕は出来るだけ意味を含まない笑顔で、丁寧に頭を下げました。
「ありがとうございます。お店共々、宜しくお願いします」
「……そうね、古いお店っていいわ、よ、ねぇ」
微笑むお客様の顔が、ぐにゃりと歪み出しました。
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