1

7/8
前へ
/8ページ
次へ
このレトロな喫茶は、幅広い層に愛されています。 そして僕の「気」は、特定の層に引っ張りだこです。 先ほどみたいなお客様が、たまにご来店されます。 もちろん、普通の人間のお客様も来てくれます。 でも先日、僕にお手紙をくれた可憐な女子大生のお客さんは、お人形のように可愛らしい凛さんからの低い耳打ちに身を震わせ、急いでお店を出て行ってしまいました。 何を言ったのかは、聞いてません。怖くて。 ただ、あの様子では、もういらしてくれないと思います。 ちなみに手紙は、蓮君に丁寧に没収されてしまったので、何が書かれていたのかは謎のままです。 お店へご意見を下さったのかもしれませんし、もしかしたら、蓮君への橋渡しを頼むものだったかもしれません。 「蓮君、あの手紙にはどんなことが書かれていましたか?」 ある時そっと聞いたら、蓮君はふるふると首を振りました。 「慶太さん宛の手紙を、勝手に開けるわけには行きません」 「…なるほど。じゃあ、僕に開けさせてもらえませんか?」 「あまり開けて欲しくありません。だってラブレターだから」 真剣に顔をしかめるものだから、思わず吹き出してしまいました。 「蓮君を差し置いて、僕が貰うわけないでしょう」 「…………」 蓮君は絶望的な顔で僕を見つめて、そして大きなため息をつきました。 「蓮君?」 「……自分の魅力をわかってないところも好きですけど、危なくてしょうがない」 「え?」 「なんでもありません。とにかくあの手紙も、今後貰う手紙もすべて俺が預かります。あと、誰かに直接何かを言われたら、返事をする前に俺か凛に言って下さい」 「え、でも……」 「いいですね?」 真顔で首をかしげる蓮君に、僕は戸惑いながら、結局うなづいてしまいました。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加