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「あいつって意外と夢中になると周りが見えなくなるタイプだからなー。とはいえ、女にいれこむなんて珍しいけど」
「ぶっちゃけ、ノアも怪しいんだよねー」
「はぁ!?ノア!?」
「ほら、ノアって好きな子にほど冷たくするタイプじゃない?」
「いや、でも…。まさかそれはないだろ!」
「僕の思いすごしだといいんだけどね」
「バンド内でごたごたはごめんだぞ」
「僕だって」
こうしてそこはかとない不安を胸に二人は建物内へと消えていった。
そんな二人の心配などよそにシズキはヒビキにべったりで楽屋へ着くまで彼女と腕を組んだままだった。
「シズキくん、いいかげん放して下さい!」
「ちぇーっ!」
ヒビキは困ったように眉をしかめて、口を開く。
「撮影は○○時からの予定なのでそれまでにご昼食と着替えを終わらせて、メイクをしてもらってください。私は先に行ってますから」
「何、ヒビキ行っちゃうの?マネージャーだろ」
「私だっていろいろやることあるんですから!」
彼女がそう答えるとシズキは残念そうにため息をついた。
「わかったよ」
「それじゃ、よろしくお願いします」
パタンと楽屋のドアを閉めるとヒビキは盛大なため息をついた。
シズキの様子がいつもと違う気がする。
確かに今までもふざけてじゃれてくることはあったが、こんなにべったりとくっつかれたのは初めてのことだ。
まさかとは思うのだが。
―どうしちゃったんだろ、シズキくん。
そんなことを考えながら渡り廊下を歩いていると、窓の向こうに自然の雄大な景色が広がっていた。
ほんのりと雪化粧をほどこした山々がそびえ、空の青と深い緑に目を奪われる。
「凄い…」
近代的なビルが立ち並ぶ都会で仕事をしていると、便利さに気を取られてこんな風に立ち止まることさえなかったことに気づいた。
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