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忙しない毎日の中で空を見上げることなんてなかった気がする。
―こんな景色を眺めているとホッとするな…。
ヒビキはぼーっと遠くを見つめ、何かに囚われたようにしばらくその場から動けずにいた。
そしてハッと我に返った頃、視線を落とした先に見知った人の姿があることに気づいた。
どうやらそこは撮影準備の進められている中庭を見渡すことができるらしい。
―あ、トモくん。
見学をすると言っていた彼は真剣な顔をしてプロの仕事に見入っていた。
時折、スタッフにあれこれと尋ねて教えてもらったりしている。
やはり元々こういう世界に憧れてバンドをやっていただけあって今も興味は尽きないらしい。
普段は口数もそう多くはなくて物静かなトモハルだが、今だけは少年のように目をキラキラと輝かせているのがわかる。
―なんだか可愛い。ああいうところはジェダイトのみんなと変わらないな。
ヒビキはそんなトモハルを見つめて無意識のうちに微笑んでいた。
「…何見てるの?」
そんな時、ふいに背後から声をかけられてびくんと肩を揺らした。
驚いて心臓が飛び出るかと思った。
「誰?」
ヒビキが目を丸くして振り返ると、そこにはすでに衣装に身を包んだシズキが穏やかに微笑んでいた。
しかも顔が触れてしまいそうなほど近い。
「ふっ、そんなに驚いた?」
耳元で囁かれて不覚にもドキッとしてしまった。
改めて至近距離で見るとシズキは整った顔立ちをしていてかっこいいと思う。
王子様的なキャラでファンの子たちが黄色い声を上げるのも無理はない。
「ちょ、ちょっと近いっ…!脅かさないでください!!」
ヒビキは焦って後ずさったが、窓にぶつかって逃げ場を失う。
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