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二日前、自分の容姿を鏡で確認するとあのやせ細った男の様に自分もまた、ガンになったのではないかというくらいに頬がこけていた。この一週間ろくに食事もしていない。
このまま死ぬのか。
それとも誰かを殺してしまうのか。
――トントン。
ノックの音が聞こえてしまった。誰か来た。
「う……ぐっ」
柊詩音は自覚していた――このまま扉を開けたらそこにいる人間を何らかの方法で殺してしまう、と。
何とか自分の中の殺意と戦いながら必死に布団をかぶって居留守を装う。しかしこれは麻薬を吸っている人間が禁断症状の時に麻薬を目の前に置かれて我慢しているの同じ状況で。
たかだか精神が一般人レベルの詩音に耐え切れるものでは無い筈だ。
――トントン。
ノック。
誰かがご来客したようだ。
「うあ……やめろ、やめろ……」
意思に反して自分の体が立ち上がり、誰かがいる玄関へ勝手に足が動いていた。本当に殺してしまう。殺したくない殺したくない。
だけど今自分を支配している何かはそんな人間の感情など脆くも簡単に突き破り、脳味噌を制圧している。
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