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しかしながら、愛希はその日、結局何も出来なかった。
山野は丁寧に教えてくれたし、一度起こした火を消してもう一度同じようにやってみろと言ってくれた。しかし愛希は火打ちは上手く火花が散らないし、いざ火種が出来て息を吹きかけ再び吸い込むときに筒の中から吸ってしまい、むせこんでしまうのだ。
「……ほんとに、すみません」
「はは、別にいいよ。初めてだったんだろ? それにしても珍しいけどさ」
ここまで役に立たないと罵られてもいいものだと思うのだが、山野は相変わらず苦笑したままだった。愛希はそんなやさしさに更に心が痛くなる。
「いやほんとに、申し訳ないです……」
愛希がしょぼんとしているのを山野がずっと励ましていたのだが、その様子を見た井上がニコッと笑って愛希の肩を叩いた。
「ほらほらまだ朝なんだから元気を出して。それじゃあ膳を運ぶことだけやってもらおう」
そう言って膳を指さす井上を見て、愛希は顔をパッと輝かせるとハイ! と大きな声で返事をした。隣の山野が単純だなあ、と笑った。
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