1.同じプリンスなら髭面オヤジの方がまだマシ

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それは昨日の出来事だった。 「汐(シオ)、ちょっと来て!」 珍しくバイトのなかった私は、母上に呼ばれるがままに一階のリビングに降りて行った。 「あれ?おかーさんは?」 リビングには何やら不機嫌な様子の父親。 今日は店に出てないのか、なんて呑気な事しか考えてなかった。 「汐ーっ!こっちよ!」 廊下の奥の和室から聞こえてきたらしい母上の声に呼ばれて何も考えずに行ってしまった私が憎い! 和室を開けるとどこかで見たことのある着物を広げる母上の姿。 ああ!そうだ!成人式に着た振り袖じゃん! モヤモヤが晴れてスッキリー!って! 何で今ごろそんなもの出してるのよ? 虫干しか?夜なのに? 「つっ立ってないでちょっと当ててみてよ!」 ぐいぐいと着物を押し付ける母上の勢いのままに着物を羽織る私。 「うん、まだイケルわね。これで良いわ。」 「あのー、成人式はとっくの昔につつがなく終了しましたが?」 「何言ってんのよ!今度の日曜日、顔合わせだからね!土曜日は禁酒しなさいよ?顔浮腫むんだから!」 ポカンと顔に書いてあったに違いない私に母上は盛大なため息を・・吐くのを堪えて飲み込むとニッコリ笑顔を浮かべる。 ゲゲッ!母上がこの笑みを浮かべるときに良いことがあった試しがないんですけど!?
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