ただ虚しいだけの燕

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燕、と。 呼びかけられるのは初めてのことじゃない。むしろ耳に入れては、うん、と反射するのはいつものこと。私はいつの頃からか燕になった。それがいつかも思い出せないほど、遠い頃に。 首にチクチク刺さるくらいの長さの髪は、正直嫌いだ。何を思ったか長かった髪をばっさり切ってしまって、一時的に満足感を得た後、好き放題伸びては跳ねる髪を映す鏡を睨んで向かい合って、満足感を焼き尽くす後悔に舌打ちする日々。自分を陥れたかった訳じゃない、ただ私は自分が嫌いだ。でも傷つけたいわけじゃなくて、どうしようもなく、ああ、そうだ。 ただのかまってちゃんなのだ。 「燕の馬鹿」 ずぶ濡れの私の額に、こつん。 同じくらい冷えた指先が触れた。 「言われたくない」 「いや、馬鹿だよ、ホント。あー寒ぅ…今日はダメって言っただろ」 「言ってない」 いらいらいら。 本当にこいつは喧しい。言ってないったら言ってない。言ってたとしてもどうせ聞かなかった。私が気にしなきゃいいだけの話。 「雨、」 「ん?」 「雨にあたりたくて、」 「そりゃ残念。で、シャワー?」 「、」 「なーる……」 くつくつと笑うのは、私を燕と呼び始めた男。
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