ただ虚しいだけの燕

4/6
前へ
/10ページ
次へ
鳩と燕はアパートに住んでいる。 ツリーハウスに住んでみたいなぁ、と、濡れた髪をタオルで揉みながらこぼしてみると、それもいいかもねと鳩は笑った。真っ白な壁と白を反射するフローリングに囲まれた一部屋しかないこの場所で、私は大抵の時間を眠って過ごしている。 大きなクジラのクッションを潰すように抱き抱えて、隅に転がって目を閉じるのだ。そうしているうちに、ときおり浮かぶ水面はオレンジに染まり、虹色に変わる頃、玄関から音がして目を覚ます。 鳩は部屋にいない。朝はすぐにどこかへ行くし、夜はすぐに寝てしまう。鳩がいない部屋は恐ろしいほど面白くないため、鳩がいる時間に起きているよう心がけたら、私は完全に夜行性生物と化していた。 今日は雨が降る、と。 昨夜、自信たっぷりに天気予報士が傘のアイコンを叩いていたから、期待していたんだ。昼間にも関わらず目をかっ開いて、曇天を今か今かと見上げていた。ぱらぱらとでも降ってくれたら、少しは我慢出来たかもしれない、のに。 「あーぁ……お前これぇ」 素っ頓狂な声が聞こえた気がしたけれど、一目散にクジラに駆け寄って、顔を埋めて、シャットアウトした。話しかけないでください。あなたの話も聞きません、という意思表示。クジラが湿ってしまい、少し申し訳ない。おい、と咎める声は、頭の上から降ってきた。 「燕ぇ、悪いことしたってのは分かってるんだよね?」 「しらない、から」 「じゃあ顔あげて」 「だから、知らない」 「卵嫌だった?」 「っちがう!!」 クジラを跳ね飛ばす。 確かめた彼の表情は、なんにも笑っていない笑顔だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加