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他人さんが死んだ。と一言で済ませたいところだけど、事はなかなか複雑である。
とりあえず私が殺したわけではないし、他人さんが自殺したわけでも事故死したわけでもない。
他人さんはこの世界で一番やっかいな病気を患っていたというだけだ。というのもそれが病気だって最近知ったわけだけど。
「確かあの病気だったかな」
こう言いつつ私は筆を休めることにする。今日のところはここまで書けた。今はもういいだろう。
また明日書けばいいし、森の中で一人暮らしをしているのだから、時間なんてたっぷりとある。
そう思いながら今日する事を考えることにする。
「あれ?することないや。また今日もぼーっとするだけか」
そう。今は一人しかいない。他人さんと一緒に旅をしていた頃は他人さんがいた。旅もしていた。国を見ていた。世界の広さにびっくりしていた。
なのに今はなにもせず290年も寝て起きてを繰り返してる。たまに外にはでるがほとんど家の中だ。つまりニートってやつか。
「ああ・・だからか。だから日記なんて書こうと思ったんだ」
という独り言(といっても一人しかいないが)は静寂に溶けていった。
つまり、暇なんだから日記を続けよう。こう考えるのも必然だった。
「どこまで書いたっけ?」
自分の書いたこれまでの日記を読み返しながら考えることにする。
他人さんが死んだのは病気のせい。これは起こり得るべくして起こった事だった。
「他人さんは言葉が話せなかった。」
これは全世界を揺るがした恐ろしい病気で、いきなり発病したかと思うと即言葉を発することができなくなり、10年で死んでしまうのだ。
治療法は290年経った今ならあるのだが、当時は不治の病で発症すると10年で死に至った。
いきなり話せなくなれば、いくら私でもおかしいと気づけたけど、幸か不幸か他人さんと会ったのは発症してほんの数時間後で、私が生まれて数分後だった。
つまり最初から会話はできなかったのだ。だから他人さんと旅を始めた時から、商人としての交渉などはほとんど私がしていた。もちろん指示は紙に書いてくれたし、間違ったことはなかった。
毎回交渉がうまくいく度に頭をなでてくれる。笑ってくれる。誉めてくれる。そして一緒にいてくれた。
そんな他人さんの最初で最期の言葉が2ページ目に書いた・・日記を書いてだった。
まあ、他にも言っていたのだけどね。それはまたいつか。
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