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「コラァ、木本! お前まだ真柴さん独り占めしてんのか!」  先ほどの泥酔二人組がトイレを済まして戻ってくるなり、まだベンチに座っている二人を見て声を上げた。名前を呼ばれたりょうと涼介は同時に驚き、同じように肩をびくつかせる。 「なんっつぅタイミングで……」  眉を下げて苦笑いする涼介の表情に「あ、邪魔すんなって顔してやがるこいつ」「別れの挨拶はダラダラしちゃいけねぇんだぞ~。男なら潔くだ」赤い顔をちょっと怒らせている男と何故かドヤ顔でアドバイスしてくる男二人。  酔いもすっかり醒めたりょうが戻ります、と立ち上がると、赤い顔の男性社員がりょうにお酌してほしいと上機嫌で宴会場に連れていった。  残された涼介も重い腰をあげるようにゆっくりと立ち上がる。 「さっき、別れの挨拶は潔くって言ってましたね」 「ん? あぁ、そうだ!」一緒にそこにいる、アドバイスをくれた先輩社員は自信ありげに頷いた。「まぁ、真柴さんとは席も隣だったし歳も近かったから、君が一番交流あっただろうけどな。やっぱり寂しいか」  後輩を労わる優しい眼差しに、涼介はそうですね、とこめかみを人差し指でぽりぼりと掻きながら肯定した。胸に秘めた寂しさは、接する機会が多かったからだけではなかったが。  宴会場の部屋に戻って店のスリッパを脱ぎ、襖を開けようと手を伸ばす先輩社員の背中に向かって、涼介は言葉を零した。 「俺、潔くなんて無理でした。自分が思ってたより、往生際悪いみたいです」 「そういうときは飲め。酔っ払えば、泣いても笑っても大丈夫。真柴さんのこと送り出してあげられる」 「は……ッ、マジですかそれ。信じますけど」  熱くなりそうな目頭を無視して、背中を向けたままでおかしなアドバイスをくれた先輩社員に続いて、騒がしい宴会場に足を踏み入れた。
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