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冗談で言っているのか本気なのかいまいち分からない声のトーンに困惑していると、涼介は続けて言った。
「俺じゃ、駄目?」
彼の縋るような眼差しから、りょうはしばらくじっと逃げずに見つめ返していたが、やがてふと自分の足元に視線を落とした。
「――ごめん。あの人じゃないと、駄目なんだ」
「……どうしてって、訊いてもいいですか?」
その言い方はズルい。だってもう訊いてるじゃないか――。
そんなことを思ったりょうだがそのことは口にはせず、横にいる彼の視線を受け止めながら、答えを考えて口にした。
「一番私のことをわかってくれる人だと思ったの」
誰かと生きていくことを選択すること自体、りょうにとってはあり得ないことだった。
夢に怯え、あの血のように赤い鎖に縛られ、自分の殻に閉じ籠り、いつか訪れる死を独りで待ち続けるのだと思っていた。
そんな風に生きていた自分をあの人は見破り、多少強引だったとはいえ、殻を突き破り、鎖を取り払ってくれた。水底に沈んでいた自分を引き上げて、呼吸させ、生きることに執着させてくれた。
「――――口悪いし意地悪いし強引だけれど、だからこそ、この人について生きていくならしんどいことも何とかなるって思ってる」
実際、もうなんとかしてもらったし。柔らかい笑みを浮かべたりょうに、涼介は眩しいものを見るかのような目を向けていた。
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