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*****  四月二日、めでたく婚姻届を提出した二人は夫婦となり、同時に諸々の手続きも済ませてりょうは『青田』の姓を名乗ることになった。  翌日、伊月が勤める開発部では朝礼が行われていた。りょうのいたデスクは、異動してきた男性社員のデスクになった。  左手薬指にこっそり嵌めた真新しい結婚指輪を指でなぞるように触る伊月。結婚式はまだ挙げていないが、別にいいだろうということで、昨日二人で初めて付けた。 「――というわけで、各自徹底をお願いします。部長、何か連絡ありますか?」 「ん? あぁ、あります。はい」  井上次長の言葉に伊月は顔をあげて自分の部下たちを見渡した。新年度になったため、新しい顔ぶれである。  伊月は業務のことを二つほど話したあと、「あとそれから、」少しばかり顔を緩ませた。緩ませたというより、緩んでしまった。 「個人的なことで恐縮ですが、この度結婚しました」  部下たちの顔が驚愕に満ちる。想像以上の光景に思わず声を出して軽く笑ってしまった。驚きが先行して静まり返ったオフィスだったが、すぐに祝福の拍手が起こった。 「お相手どなたなんですかー!」  誰かが野太い声をあげて質問すると、視線が伊月に集中した。彼はついにやってきたと、内心ワクワクしていた。 「相手は先月退職した真柴りょうだ。まぁ、今は青田りょうだけどなぁ」  開発部のオフィス内では男たちの驚きの声が響き渡り、その日の朝礼はしばらく語り継がれる。そして青田伊月の結婚報告は、一日で会社中に知れ渡った。
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