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その当時まだ現役でチームの中心選手だったアランは、監督だったアーサーの元でチーム練習をしていた。
ある日、アーサーの孫だという少年が練習を見学に訪れた。
アーサーの息子と日本人女性との間に生まれたハーフの少年は、練習のミニゲームに参加すると、まだ十五歳にもなっていなかったというのに、プレストンの現役選手たちを見事に交わし、ゴールを決めた。
他にも、アランとワンツーを決め、華麗なパスワークを見せ、一部の選手たちのプライドを打ち砕き、一部の選手たちを心から感心させた。
くせのない素直な黒髪の、遠目には女の子と間違えられてしまうようなまだ小さな少年のプレイに、プレストンの選手たちは心から驚いていた。
アランもその一人だった。サッカーに才能というものがあるのなら、まさに朝陽のそれは天与のものだと、そう思った。
アランはアーサーに、すぐさまユースチームへの加入を進言したが、アーサーは首を縦に振らなかった。アーサーが反対していたのではない。アーサーも孫の持つ才能については十分に理解していた。
けれども、まだ物心もつかない頃に同じくプロサッカー選手だった父親を交通事故で亡くし、それ以来高名なピアニストである母親と二人で世界中を巡っていた朝陽には、少女のように純真な母親を一人きりにするわけにはいかなかったのだ。
朝陽の母親は、毎年異なる国の様々なオーケストラに所属し、あるいは公演旅行で世界を巡る日々を送っていたのだ。
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