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短い時には一週間未満、長い時でも一年ほど各地に滞在していた朝陽にとって、フットボールだけがコミュニケーションの手段だった。
母親が練習をしている間、あるいは公演をしている間、朝陽はそれぞれの国のグラウンドに行き、そこで見知らぬ人たちとボールを蹴りあった。
草サッカーやストリートサッカーに混ざることもあったし、短い期間ではあっても地元のクラブチームに入ることもあった。
そこがどんな国でも、どんな街でも、ボールを介することである種のコミュニケーションをとることができた。
ボールを蹴れば蹴るほど、試合を繰り返せば繰り返すほど、朝陽のプロになりたいという希望は高まっていった。
一年ほど滞在していたある街では、その街のプロクラブのユースチームに入っていた。
そして、若干16歳でトップチームへの昇格を打診されたこともあった。
けれども、母親を一人にすることはできなかったし、まさにその知らせを伝えた夜に、母親から次の街への移動を伝えられたりしたこともあった。
その母親が、ハイスクールを卒業した朝陽に、プロになることを許してくれた。あなたももう子供じゃないのだし、いままで一緒についてきてくれて本当にありがとう。
母親はそう言って朝陽を送り出してくれたのだ。
プロになる最初のチームは決めていた。祖父と父の生まれ育った町であり、大好きだった選手のアランが所属していたプレストンである。
いずれはビッグクラブを夢見るにしても、まずは祖父の家に居候しながら、プレストンに所属しようと帰ってきたのだ。
「えこひいきはなしで頼むよ。コネで合格したとか思われるのはしゃくだしさ」
朝陽は笑顔を見せながら言った。
「あら、言うわね」
「まあね。見ててよ。驚かせてあげるよ」
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