第5節 トライアウト(午前)

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「撫子!」  自分を呼ぶ声に撫子が振り返ると、そこには笑顔を見せた朝陽が立っていた。  撫子は『プレストン・アワー』のリポーターの仕事で、トライアウトの参加者たちにインタビューしているところだった。  白い細身のダッフルコートに、腰の長さまでの奇麗な黒髪。色白で華奢な姿は、「お前のような少女を日本では大和撫子と呼ぶんだ」と父親が嬉しそうに話していた。  ハーフだったが、クォーターと言われてしまうくらい、母親似なのだそうだ。  撫子は日本に長く滞在したことがなかったから、自分の名前の由来にもなっている大和撫子という言葉のイメージをうまく掴むことができない。 「……朝陽?」  撫子は驚いた表情で、朝陽を見つめる。 「な、なんで朝陽がこんなところにいるのよ」 「へへっ、驚いた?」 「驚いたよ……もちろん、びっくり」 「二年ぶりくらいか?」 「そうだよ……前に会ったのはハイスクールの夏休みのときだから」 「じゃあ、それくらいだな。なんだかずいぶんと久しぶりの気がするな」  朝陽は人懐っこい笑顔でそう言うと、撫子をじっと見た。 「な、何……」  撫子は朝陽に見つめられて、頬を赤く染める。 「いや、大人っぽくなったなって思ってさ。髪も伸びたし」 「そ、そりゃあ、もう19歳だし……」 「うん。奇麗になったな」  朝陽の言葉に、撫子は一気に赤くなる。 「そ、そんな歯の浮くようなことを言う奴だったかしら」 「この間までイタリアにいたから口が軽いのが移ったのかも」 「え? イタリア? 今日はどうしてここに?」 「決まってるだろ」 「え?」 「トライアウトだよ。オレも参加者だよ」 「え? だって、お母様は?」 「みんなそれ訊くよな。ま、親離れ、子離れだよ」  朝陽はそう言って笑う。 「この間クラブハウスに行ってアリスに同じ話をしたんだけど、聞いてなかった?」 「ううん、何も……」  言いながら、アリスがわざと隠していたのだと撫子は思う。  こうやって、驚かせようとしていたのだ。  撫子には母親の違うクールな姉がいたずらっぽく微笑む姿が思い浮かぶ。
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