342人が本棚に入れています
本棚に追加
「それに、ずいぶん前に約束したろ。プレストンをプレミアに昇格させるってさ」
朝陽は屈託のない表情でそう言う。
撫子は、目の前に朝陽が立っているのをまだうまく信じられないでいた。
デレク会長の次女である撫子と、当時プレストンの監督をしていたアーサーの孫である朝陽とは、幼いころからお互いの家を行き来する幼なじみだった。
ともに、日本人とのハーフであることも手伝って、仲のよい遊び友達だったのだ。
けれども、朝陽が5歳のときに朝陽の父親のレオンが交通事故で亡くなり、世界中を飛び回っているピアニストである母親と一緒に旅立つこととなった。
それから年に一度か二度、祖父の家に帰ってくるときに会うことがあり、そのときにお互いの近況などを話していた。
かつては文通を、携帯電話を持つようになってからはメールをするようになった。
ハーフのせいか、時々どちらの世界にもうまく属することができていないと思えるようなとき、撫子は朝陽と無性に話したくなった。
撫子は世界のいたるところでフットボールを楽しんでいる朝陽の言葉を楽しみにしていたし、プレストンにずっとい続けている自分の分身が、世界中を旅して回っているような気持ちになっていたのだ。
「……その約束覚えていてくれたんだ」
それはまだ子供だった時に約束したことだった。
覚えていてくれたのだと、朝陽を見る。
「もちろん。約束は守るよ。そのためにもまあ、今日の試験を頑張らなくちゃだけどな」
しばらく見ないうちに、朝陽は随分と背が伸びたと撫子は思う。子供のころは女の子と間違えられることもあったのに、いつの間にかちゃんと男の人になっている。
二年ぶりの幼なじみとの再会に、撫子は朝陽をちゃんと見ることができないのだった。
最初のコメントを投稿しよう!