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一通りのフィジカルテストが終了した後、十五分の休憩時間が設けられた。
トライアウト参加者たちはグラウンド脇に座り、クラブが用意してくれているスポーツドリンクなどを手にしている。
「さっきのすごかったね」
朝陽はスポーツドリンクを飲みながら、隣でクールオフをしていた黒人選手にそう声をかける。
ボボはそんな朝陽の言葉がわからないかというように、首を振る。
「通じてない? じゃあ、何語なら通じる? グーテンタグ? ボンジュール?」
朝陽がそう言うと、ボボは笑顔になる。
「ボンジュール!」
と大きな声で言う。
「そっか、フランス語か」
朝陽はそう言い、フランス語でもう一度「さっきのすごかった」と続けた。
ボボは「あれくらいは大したことじゃない」と丁寧なフランス語で答える。
「あなたはどこの国の人?」
「アルジェリア」
「アルジェリア? アフリカの?」
「そうだ……お前、フランス語がしゃべれるのか?」
「プチプー。昔住んでいたことがあるんだ」
「おぉ、よかった」
「ん? なんで?」
「ワタシは所属しているチームでは、言葉がうまく通じなくて試合に出られなかった。だから今日もコミュニケーションがうまくできず、試験にパスしなかったらって心配だった」
「なんで? 喋れなくてもサッカーはできるでしょ。ビッグクラブにもなれば、様々な言語の選手たちがひとつのチームになっているものだと思うけど」
「監督の言葉を理解することができない。そうしたら、戦術もわからない。うまく適合できなくて、どう動いたらいいかわからなくなる。それで動きが一瞬、一瞬遅れる。それが致命的なミスになる」
「すべてを指示することはできないじゃん。自分で考えながら、その局面局面で最良のプレイをすることを意識すればいいんじゃないの?」
「もちろんそうだと思う。でも、ワタシが所属しているチームの監督は違った。自分の言う通り、指示した通りにどうしてできないんだって怒られた。なんて言って怒っているのかはわからなかったのだが……結局、試合に出してもらえなくなった」
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