第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 雪は意を決すると真剣な表情でペンを走らせている桐島に声を掛けた。 「……先生?」 「ん?」 手を止めることなく返事を返してきた桐島に、雪は言いづらそうに言葉を口にする。 「先生ってさ……頭以外の身体の異状について詳しくないの?」  意外な雪の質問に桐島は目を丸くすると、持っていたペンを机の上に置き、いつもの爽やかな笑みを浮かべた。 「専門的なことに関しては担当医に聞いた方が早いけど、これでも医学の勉強は真面目にやってきたからね。雪君よりは詳しいと思うよ?」  得意気な顔をした桐島に、雪はいつものように悪態をつく気力が湧かずただ苦笑いした。 「……そう」  あまり元気がない雪に、桐島は何かに気付くと心配そうに顔を覗き込む。 「もしかしてっ……他に気になる事とか?」 「…………」 口を噤み俯いてしまった雪に、他にも身体に異常があるのだと思い込み慌てて内線電話を手に取った。 「だったらっ、すぐに診てもらおう。私から担当医に連絡するから症状を教えて?」  人の話しを最後まで聞かず一人、先走る桐島に雪は慌てて声を上げる。 「そうじゃなくてっ」 「えっ?」  雪の声に桐島は不思議そうな顔をすると受話器を降ろした。  自分が口を開くのをじっと待っている桐島の熱い視線に耐えきれなくなり、雪は重たい口を開く。 「あの……俺じゃなくて……」 「誰か具合でも悪いのかな?」 真剣な表情を浮かべ身を乗り出してきた桐島に、雪は顔を引きつらせると後ずさった。 いくら桐島が自分と羽琉の関係を理解しているとはいえ、内容がデリケートなだけに口にするのが躊躇われた。 ましてや自分ではなく羽琉の身体のことで正直に話すのも気が引け、少々考え込むと話しを作り変えることを思い立つ。
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