第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 診察室の中。  診察を終えた雪は目の前でカルテに目を通す桐島をじっと見詰めた。  刺さるような視線に気付き、険しい顔をしている雪に桐島は苦笑いする。 「そんな怖い顔しなくても、検査は問題ないよ。ちゃんと薬も飲んでいるみたいだし目眩や手の痺れは副作用の影響だね」 平気な顔をして嘘を吐いた自分に桐島は心の中で舌打ちする。 やはり腫瘍がもたらす身体への影響は薬だけでは抑えられなかったことに、今更ながら後悔していた。 あのとき、少しでも取り除いていればと。 そんなことを桐島が考えているなど知る由もない雪は、自分の身体の不調よりも昨夜の羽琉との事で頭がいっぱいだった。 「……そうですか」  浮かない表情で、ぽつりと呟いた雪に桐島は心配そうに問いかける。 「心配なら少し薬の種類を変えてみようか?」 雪が小さく頷くと桐島は机に向かって処方箋を書き始めた。 そんな桐島の姿を虚ろな目で見詰めていた雪が、ふとあることを思い浮かべる。 自分一人で悩んでいるよりも医者である桐島に相談してみてもいいのかもしれないと。
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