第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

9/219
前へ
/2392ページ
次へ
 桐島の聞き方に一瞬、自分が勘違いしていたことに気付くと、雪は慌てて昨夜のことを思い出し気まずそうに顔を逸らした。 「あっ……その……前戯ってゆうか……」  恥ずかしそうに、そう口にした雪に桐島は躊躇う事なく質問を続ける。 「そのときに、”知り合いの女性”は彼が勃起していないことに気付いたってことかな?」  あまりにもストレートな桐島の質問に、雪は驚いた顔をすると再び顔を逸らし、ぽつりと呟いた。 「……まぁ」  気まずそうにしている雪とは打って変わって、桐島は笑みを浮かべると言葉を続ける。 「少し緊張していただけなのかもしれないよ。きっと、その女性とは初めてだったんじゃないのかな?」  能天気な声で、そう言った桐島に雪は眉を吊り上げた。 確かに、お互い初めてで、しかも同性という難問付きだ。 だからと言って、そんなことは初めから分かりきっていたことだった。 それを土壇場になって躊躇した羽琉の心が理解できない。 自分から行動に起こそうとしたくせに。  昨夜は落ち込む羽琉の姿に冷静に対処できた雪だったが、桐島に話しを聞いてもらっているうちに次第に腹が立ってきた。 「でもっ、自分から迫っておいてそんなのってっ……」 「…………」  突然、身を乗り出して声を上げた雪を、桐島は諭すように無言で微笑んでみせる。 そんな落ち着いた桐島の姿に、雪は眉間に皺を寄せると静かに口を開いた。 「……自分に魅力を感じられなかったとかじゃないのかなって」 実際口に出してみて、やはりそうなのではないかと思った。 羽琉と同じ、男である自分ではダメなのではないかと。 「彼にとって……自分じゃ、ダメなんじゃないかって」  肩を落とし哀しそうに、そう口にした雪に、桐島はふっと笑みを浮かべた。 「彼は嫌そうだったのかな?」 「えっ?」 面食らう雪に、桐島はそのときの羽琉の様子を伺うべく優しく問いかけた。 「どう思う? 彼は嫌々、触れてきた?」  桐島の問いに雪は”知り合いの女性”の話しの設定であることをすっかり忘れ、昨夜の羽琉の姿を思い浮かべていた。
/2392ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1608人が本棚に入れています
本棚に追加