第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 病室のベッドの上。  酸素マスクをつけ腕には点滴を打たれた雪が静かに瞼を閉じていた。 その横では険しい表情を浮かべた羽琉が、祈るような格好で雪の寝顔をじっと見詰めている。  突然、勢いよくドアが開かれたかと思うと血相を変えた慎司と拓巳が病室の中に雪崩れ込んで来た。 「雪さんっ?!」 「おうっ、羽琉。どうなんだよ?」  駆け寄って来た二人に、羽琉は険しい表情のまま振り返ると、ゆっくりと椅子から立ち上がる。 「……うん、まだ目は覚めてない」  拓巳はベッドの上の青白い顔をして眠っている雪の姿に愕然とする。 「なんで……病気、治ったんじゃ……?」  瞳を潤ませながら恐る恐る雪に近付いて行く拓巳の姿に、羽琉と慎司は眉間に皺を寄せた。  三人がベッドの上の雪を見詰めていると、開けっ放しだったドアから桐島が顔を出す。 「来栖さん」  神妙な面持ちをして自分の名前を呼ぶ桐島に、羽琉は重い足取りで近付いて行った。 「先生」  羽琉が言葉を掛けた瞬間、拓巳が羽琉を押しのけるように桐島に向かって行くと肩を掴み声を上げる。 「先生っ。雪さん、治ったんじゃないんっすかっ?」 「あっ……それは」  拓巳に詰め寄られ桐島が返す言葉を無くし狼狽えていると、羽琉が慌てて拓巳を引き離す。 「拓巳っ」  拓巳が離れてからも動揺している桐島に、羽琉は落ち着いた口調で問いかけた。 「先生、雪の容態は?」 「……ちょっとよろしいですか?」  目を伏せ外へ出るように促す桐島に、羽琉は慎司と拓巳に声を掛けた。 「悪い、ちょっと雪のこと頼むわ」 「羽琉?」 「羽琉さんっ?」 不安そうな顔をする二人に安心させるよう笑みを浮かべてみせる。 「心配するな。ちゃんと、お前等にも教えるから」 それだけ言うと羽琉は桐島の後を追い、病室を出て行った。
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