第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 桐島の言い方で彼が自分に対して怒っているのだと感じた。 それも当然だ。 正直者であろう彼を自分は巻き込み、共犯者にまで仕立てたのだから。 だが、だからと言ってここで桐島の言う通りにする訳にはいかなかった。 誰を巻き込もうと、これだけは絶対に譲れないと。  羽琉は考え込むように眉間に皺をい寄せると重たい口を開き始める。 「……だったら、副作用じゃなくて手術の後遺症だって説明すればいい」  冷静に、そう口にした羽琉に、桐島は不可解な表情を浮かべると羽琉の肩を強く掴んだ。 「来栖さんっ? あなた、まだ彼を騙すつもりですか? そんなことして何になるっていうんですかっ?」 「先生には分からないですよ。俺とあいつのことは」 ここまで言っても考えを変えない羽琉の態度に、桐島は唖然とすると突き放すように肩から手を離した。 「分からなくてもいいです。とにかく、彼の目が覚めたら全て話します。手術は行っていないと」 もうこれ以上、彼と口論していても時間の無駄だと、桐島は病室へ向かおうとドアノブに手を掛ける。 その瞬間、羽琉は桐島の腕を強く掴み、それを阻止した。 「?!」  驚いて振り返った桐島に、羽琉は今にも流れ落ちそうな涙を必死で堪えながら言葉を口にする。 「……お願いします。黙っててもらえませんか? 俺の為じゃない、雪の為に……」 「来栖さん……?」  さっきまで冷静さを保っていた筈の羽琉が、今にも泣き出しそうな顔をしていることに桐島は困惑した表情を浮かべた。  羽琉は桐島に向かって床に跪くと深々と頭を下げる。 「お願いしますっ。その為なら俺なんでもしますからっ。雪には……黙ってて下さいっ……」  自分に向かって土下座する羽琉に、桐島は慌てて、しゃがみ込み羽琉の肩に手を乗せる。 「来栖さんっ? やめてくださいっ……困りますから……」  自分を立ち上がらせようと必死で肩を掴む桐島に、羽琉は額を床の上につくと、ひたすら懇願し続けた。 「お願いしますっ……雪には言わないで下さいっ……!!」 「…………」  崩れ落ちるように床の上に手をついた羽琉を、桐島はこれ以上止めるすべを無くし言葉を失った。 何が彼をここまで駆り立てるのか。 恐らく自分には一生、理解出来ないであろうと。
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