第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 病室のドアが静かに開き、桐島に呼び出されていた羽琉が一人戻って来ると、椅子に座って雪の様子を伺っていた慎司と拓巳は慌てて立ち上がった。 「羽琉っ。先生なんだって?」  心配そうに問いかけてきた慎司に羽琉は一瞬、言葉に詰まるも、先ほどなんとか桐島に口裏を合わせるよう説得し自分から話すと約束したことを実行する。 「……手術の後遺症が今頃になって出てきたって」  神妙な面持ちをして、そう口にした羽琉の言葉に慎司は愕然とした。 「そんな……つい最近まで何ともなかったのに」  拓巳は未だ目を覚ましそうも無い雪の姿を見詰めながら、不安そうに言葉を口にする。 「じゃあ、これから雪さん……また倒れたりするかもしれないってことですか?」  雪から視線を自分に移した拓巳に、羽琉は目を伏せると言いづらそうに言葉を口にした。 「……恐らく」 「どうにかなんねーのかよ? せっかく治ったってのに」  落ち着かない様子で慎司が病室の中をうろつき始めると、羽琉はそれを宥めるように落ち着いた口調で言葉を口にする。 「元々、こうなるのは覚悟してたことだから。今まで普通に生活できてたのが不思議だったんだよ」  羽琉はベッドに近付くと眠っている雪の頭をそっと手で撫でた。  落ち着いた羽琉の態度に、慎司は自分が取り乱していることに気付き冷静になると申し訳なさそうに口を開く。 「羽琉……」  愛しそうに雪の頭を撫で続ける羽琉に、拓巳は意を決し口を開く。 「羽琉さん。オレなんでも手伝いますから遠慮しないで言って下さいね?」  心強い拓巳の申し出に羽琉は微笑み振り返る。 「ありがとう拓巳。助かるよ」 「?」  穏やかな笑みを浮かべた羽琉に慎司は一人、違和感を感じ眉を潜めた。 それは、まるで全てを悟ったような、そんな風に慎司には見えた。
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