第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 病室では椅子に座っていた拓巳が、心配そうに眠り続ける雪の顔を覗き込んでいた。 雪の瞼が微かに動くのを目にすると身を乗り出し呼びかける。 「雪さんっ?」  拓巳の言葉に、雪は重たい瞼をゆっくり開けると、目線だけ動かし目の前にいる拓巳の顔をじっと見詰めた。 「……拓巳? どうして……」  雪が気がついたことに拓巳が安堵した笑みを浮かべているとドアが開き、羽琉と慎司が戻ってくる。 拓巳は振り向くと慌てて羽琉に駆け寄った。 「あっ、羽琉さん」  羽琉は微笑む拓巳からベッドの上にいる雪に視線を移すと、慌てて雪に駆け寄り顔を覗き込む。 「雪?」  優しく自分の頬を撫でた羽琉に雪は不思議そうな顔をした。 「羽琉……。なんで、俺またここに?」  自分になにがあったのか覚えていない様子の雪に、羽琉は心配そうに問いかける。 「廊下で倒れたって。覚えてないのか?」 「倒れ……?」 怪訝な表情を鵜べた雪に羽琉は安心させるように言葉を続けた。 「後遺症のせいだ。でもリハビリすれば生活に支障はきたさない程度までは回復出来る可能性があるって」  また自分のせで心配をさせてしまったと、力なく微笑んだ羽琉に胸が熱くなる。 泣きそうな笑顔をする羽琉を直ぐに安心させたくて、その頬に触れようと雪は右手を動かそうとするが違和感を感じ一気に身体が凍り付く。 「羽琉……?」  震える声で自分の名を呼んだ雪に嫌な予感がした。 「どうした?」  雪は布団の中にある手を必死で動かそうとするが思うように動かない。 「手が……」  雪の異変に気付き拓巳は眉を潜めると雪に駆け寄る。 「雪さん?」  雪は訴えるような視線を羽琉に向けると、言葉を詰まらせながら震える声で自分の身に起こっている現状を口にした。 「羽琉……俺の右手……変だ」 「雪?」 「手が……動かない……俺の手が……」  瞳を潤ませながら必死で訴える雪に、羽琉は自ら雪の右手を布団の中から引き抜くと、しっかりと両手で握り締める。 「右手ぐらいなんだよっ。手だったら俺が握っててやる。いつでもお前がそうしたいときに、俺が代わりに握ってやるからっ」 ショックを隠しきれない様子の雪に、羽琉は必死で宥める言葉を口にした。 それは雪にだけではなく、自分自身にも言い聞かせなければいけない言葉だった。
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