第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 数日後。  病院の前では杖をついた雪が、羽琉に身体を支えられるように腰に腕を回され桐島と向かい合っていた。  心配そうな顔をする桐島に、雪は苦笑いすると声を掛ける。 「先生。患者が退院するのに、そんなお通夜みたいな顔で見送らないでよ? 退院しずらいじゃない?」 「あっ、ごめん。やっぱりまだ心配で」  慌てて笑顔を作る桐島に、羽琉は雪の身体を引き寄せると微笑んだ。 「大丈夫ですよ。俺が傍にいますから。それに、あの二人もついてる」 そう言って羽琉が振り返った先には、車体に大きく酒屋の名前がプリントされたワゴン車の窓から、慎司と拓巳が顔を覗かせている。  運転席に座っていた拓巳はクラクションを鳴らすと大声を上げた。 「雪さーん、羽琉さーん! 早く行きますよー?!」 それに釣られるように助手席に座っていた慎司も窓から身を乗り出して声を上げる。 「風香ちゃんが退院パーティーの準備して待ってんだから急ぐぞー!!」 その様子に雪は笑みを浮かべると声を張り上げた。 「今行くー!!」  三人のやり取りを見ていた桐島は、愉快な光景に笑いながら口を開く。 「本当だ。私の出る幕はなさそうですね」 「何かあったら、すぐに連れてきますから」  羽琉の言葉に雪は口を尖らせると桐島にニッと笑みを浮かべた。 「どっちにしろリハビリで通わなくちゃ行けないんだから、しょちゅう俺には会えるでしょ?」 「そうだね。会えるのを楽しみに……ってのは可笑しいか」  矛盾な自分の言葉に桐島が苦笑いすると雪はふっと笑みを浮かべる。 「ありがとう先生。それから……これからもよろしくお願いします」 「……雪君」  以前のように身体は動かない筈なのに、無力な自分に向かって誠意を込め頭を下げた雪に、桐島は居たたまれなくなり目を背けた。 その様子に気付いた羽琉は、雪に桐島の顔を見せまいと、雪の身体ごと桐島に背を向けると声を掛ける。 「……じゃあ、行こうか雪?」 「うん」  羽琉は肩越しに桐島に振り返ると申し訳なさそうに無言で会釈した。 「…………」 そんな羽琉の姿に桐島も頭を下げると、雪の身体を庇いながら車に向かって行く羽琉をじっと見詰めた。
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