第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 準備中の”Summer Memory”。  拓巳がカウンターの中で一人、グラスを磨いていると廊下から杖をついた雪が店内へと顔を出す。 「拓巳」  封筒を脇に抱え、歩きずらそうに片足を引きずる姿に、拓巳は慌てて持っていたグラスをカウンターに上に置くと雪の元へと駆け寄った。 「雪さんっ、寝てなきゃダメじゃないっすかー? オレが羽琉さんに叱られちゃいますよ」  自分の背中に手を当て身体を支えながら文句を言う拓巳に、雪は苦笑いすると勧められたカウンター席へと腰を下ろす。 「大丈夫だって。羽琉は大袈裟なんだよ」  持っていた封筒をテーブルの上に伏せると、心配そうに自分を見詰めている拓巳に微笑んだ。 「寝てばっかりじゃ身体鈍るから、久々に拓巳にカクテルの作り方でも教えようと思って」 その言葉に拓巳はカウンターの中に戻りながら、テーブルの上に添えられている雪の手を盗み見た。 「それは嬉しいですけど……」  苦笑いし視線を逸らした拓巳に、雪は自分の手のことを気にしているのだと気付くと、見えないうようにテーブルの下に隠した。 この手では以前のように満足にシェーカーを振ることはできないだろう。 だが今の拓巳ならば、わざわざ自分が手本を見せることもないと雪は片方の口角を上げてみせる。 「手本なんか見なくても口頭だけで、もう作れるよね?」  挑戦的な雪の言葉に、拓巳はニッと笑みを浮かべると胸を張った。 「もちろんですっ」  自信たっぷりの笑みで答えた拓巳に、雪は可笑しそうにクスクス笑う。
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