第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 気落ちしていない、いつもの雪の様子に安堵すると拓巳はカウンター越しに身を乗り出した。 「でっ、今日は何のカクテル教えてくれるんですか? オレ大体メジャーなもんなら作れるようになったんで今度はちょっと難易度が高いのが作れるようになりたいっすね~」  自らハードルを上げようとする拓巳に『なんて自虐的なんだ」』と苦笑いすると雪は静かに言葉を口にする。 「技術はそんなに高くないけど、気持ちが大事かな?」 「気持ち?」 不思議そうに聞き返した拓巳に、雪は少し間を置くと、ゆっくりと、そのカクテルの名前を口にした。 「……”Summer Memory”」 「……えっ?」  囁くような口調で口にした雪の言葉に、拓巳の思考回路は一瞬停止する。  驚いたまま自分を見詰めて動かなくなった拓巳に、雪は微笑みながら言葉を続けた。 「お客さんへは出せないカクテルだけど」 「雪さん、それって……?」 おずおずと問いかけてきた拓巳に、雪は懇願するかのように再び言葉を口にする。 「覚えてくれる?」  雪の様子に、それは切実な自分への願いなのだと気付くと拓巳は眉を潜めた。 「…………」  黙ってしまった拓巳に、雪は身を乗り出すと宥めるように言葉を続ける。 「これからは拓巳が俺の代わりに羽琉に作ってあげてくれるかな?」 その言葉に拓巳は困惑した表情を浮かべると、訴えるように雪へと視線を向けた。
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