第二十二章 壊れてゆく君を抱いて

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 今まで、雪には色々なカクテルの作り方を教えてもらった。 無知だった自分を手取り足取り丁寧に育ててくれたお陰で、ある程度の物ならば自分一人で作れるようになった。  自分が作りたいカクテルがあれば、名前を言わなくても色や味を伝えるだけで、雪は思いつく全てのカクテルを自分の為に作ってくれた。 そんな何でも自分のリクエストに応えてくれていた雪が、一つだけ決して作り方を口にしなかったカクテルがある。 ”Summer Memory”だ。 そのカクテルがどれほど雪にとって大切な物なのか知っていたから、 あえて自分からもその作り方だけは聞かないようにしていた。 ”Summer Memory”は雪だけが作る事を許された特別なカクテル。 そして、それを呑む事が出来るのも雪にとって特別な人だけだ。  直接、雪に聞いた訳ではないが、お互い”Summer Memory”の作り方を口にしないことは拓巳の中では暗黙の了解となっていた。 それを雪自ら口にしたと言うことは、それだけ雪にとって深刻なことなのだと理解できる。 理解はできるが、自分にとって、それをあっさりと引き受けてしまうことは出来ない。
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