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次に目が覚めた時に、枕元のサイドテーブルに、薔薇の花が、1輪だけ、細身の花瓶に、挿してあった。
「…綺麗。」
まだ、熱で、ぼおっとしていたが、薔薇だけは、しっかりと認識できていた。
少しうとうとしたのだろうか、もう一度、目が覚めると、彰が、ベッドの横で、心配顔で覗き込んでいた。
「…彰。」
「ああ…起きたのか、千秋。気分、悪かったりは、しないか?」
「大丈夫…熱のせいかな、ちょっと、頭が、ぼおっとしてる。」
大きな彰の手が、そっとおでこに当てられた。
「まだ、熱っぽいな。」
新しい冷たいタオルが、乗せられた。
「冷たくて、気持ちいい。ありがとう、彰。
ねぇ、枕元の薔薇、どうしたの?」
「温室の薔薇だよ。幾つか、蕾がついてる。
こいつは、一番に咲いたんだ。どうしても、千秋に見せたかったから、勿体ないけど、切ってきた。ダメだったか?」
「ううん、ありがとう。
そうか…咲いたんだね、とうとう。」
「約束だっただろう…必ず、母さんの温室、元通りにするって。
俺の腕じゃ、母さんみたいに、綺麗で立派な薔薇は、まだまだ、咲かせられないけどな。」
「そんなことないよ、彰。こんなに綺麗な薔薇を咲かせたんだもん。きっと、お母様のより、すごい温室になるわ。予言してあげる。」
「ありがとうな、千秋。熱下がったら、温室に、連れていってやるよ。」
「うふっ。楽しみにしてるわ。」
私が、元気になれる約束を、ひとつ、交わした。
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