薔薇の約束・Ⅱ

4/21
前へ
/806ページ
次へ
次に目が覚めた時に、枕元のサイドテーブルに、薔薇の花が、1輪だけ、細身の花瓶に、挿してあった。 「…綺麗。」 まだ、熱で、ぼおっとしていたが、薔薇だけは、しっかりと認識できていた。 少しうとうとしたのだろうか、もう一度、目が覚めると、彰が、ベッドの横で、心配顔で覗き込んでいた。 「…彰。」 「ああ…起きたのか、千秋。気分、悪かったりは、しないか?」 「大丈夫…熱のせいかな、ちょっと、頭が、ぼおっとしてる。」 大きな彰の手が、そっとおでこに当てられた。 「まだ、熱っぽいな。」 新しい冷たいタオルが、乗せられた。 「冷たくて、気持ちいい。ありがとう、彰。 ねぇ、枕元の薔薇、どうしたの?」 「温室の薔薇だよ。幾つか、蕾がついてる。 こいつは、一番に咲いたんだ。どうしても、千秋に見せたかったから、勿体ないけど、切ってきた。ダメだったか?」 「ううん、ありがとう。 そうか…咲いたんだね、とうとう。」 「約束だっただろう…必ず、母さんの温室、元通りにするって。 俺の腕じゃ、母さんみたいに、綺麗で立派な薔薇は、まだまだ、咲かせられないけどな。」 「そんなことないよ、彰。こんなに綺麗な薔薇を咲かせたんだもん。きっと、お母様のより、すごい温室になるわ。予言してあげる。」 「ありがとうな、千秋。熱下がったら、温室に、連れていってやるよ。」 「うふっ。楽しみにしてるわ。」 私が、元気になれる約束を、ひとつ、交わした。
/806ページ

最初のコメントを投稿しよう!

379人が本棚に入れています
本棚に追加