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「あぁ、うん、もちろん」
気が付けば、乗り込んでから水上がようやく放った言葉であった。
「おいで」
何とか繕って手を招くと、瀬名の頬が一層緩む。
その可愛さに、吹かれていた臆病風は見事に止んだ。
瀬名が腰を屈めておずおずと席を移る。
だが体重が一箇所にかかったせいでゴンドラが傾いてしまい、さすがの瀬名からも「ひゃあっ」と悲鳴が上がった。
「っと」
「す、すみません」
倒れかけた彼女の体を抱き止めた水上は、そのまま自分の隣に座らせ暫し見つめた。
指先で彼女の横髪を梳きながら手の平で頬を包み、次第に顔を近付け―――。
額に唇を落とす。掠めるように、軽く。
「スケスケ空間なのが憎い…」
「え」
「周りから見えてなかったら続きするのに。ここから先の野外プレイはちょっと趣味じゃないなぁ」
「…っ、何言ってるんですか!」
夕陽に照らされた朱い頬が余計に染まる。
三週間ばかり前に初めて契りを覚えた瀬名に、羞恥を与えるのはまだまだ容易いらしい。
「…あの、今日のデート凄く楽しかったです。
ずっとここに来たいと思ってたので、やっと念願叶って嬉しいです」
「リベンジ出来たね」
はい、と返した瀬名の満面の笑みに水上の目も細まった。
本来ならば今日廻ったコースは、月初めに予定していたデートの内容だ。
名古屋港の花火大会と併せて周辺施設も計画に盛り込んでいたが、出発直前になり階段で足を捻挫するという瀬名の負傷により、急遽取り止めとなってしまっていた。
花火大会はテレビ塔から観る案で対処出来たが、歩きっぱなしになる名古屋港デートは、瀬名の足が完治しかつ水上の休みの都合がついてから。
その条件をようやくクリアしたのが今日である。
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