報告書3:冬と春の境界線

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「さっきファミレスで食べてきた。ウチのwebサイト作ってる会社の人と。 って、そうやって訊かれると津田が俺の母親みたいだな」 「えー何で性別変わるの」 表向きは笑って、朗らかに返した。 だがそんな冗談でさえ心情ではもうキツい。 地雷を踏んだと自嘲する余裕は完全に削がれている。 それでも、本音は漏らしてはならない。 想い人が出来たと知ってショックを受けた、なんて。 彼の幸せを応援すると誓ったにもかかわらず、矛盾した黒い感情を抱いてしまった事は決して明かしてはならないと瞬時に悟る。 「いや、つい父親っていうよりしっくりくる気がして」 「もーホントよく僕ってそういう系のネタでからかわれるんだよねぇ。 外見が女っぽいから男が好きなんじゃないかとかも、陰で言われてるみたいでさ。見た目は関係ないのにね。なかなかヒドイ偏見だと思わない?」 「彼女募集中なのにか」 「でしょ。あ、水上とデキてるんじゃないかって噂も聞いちゃったよ」 津田の言葉に水上は一瞬目を見開いて、直後に盛大に吹き出した。 「ははっ、何だそれ!いくら長年の付き合いでも飛躍しすぎだろ!そういう話題好きな奴いるんだな」 「笑っちゃうよねー」 不自然な流れになってないだろうか。カラ元気に見えないだろうか。 穏やかに笑いながら、必死に繕う方法を脳裏に巡らせる。 心が痛い。ちくちくと剣山のようないくつもの針が胸を刺す。 この苦しみは、己が犯した罪の代償かもしれない。 取り繕って傷付くのと、全てを明かして傷付くのではどちらがマシか、誰か教えてくれないだろうか。
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