報告書5:染まるもみじと君の頬

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途端に言葉を失い、足がすくんだ。 外の景色が楽しめるクリアな壁は観覧車における基本仕様だが、こちらの観覧車は壁はおろかドアや床も透明、向かい合うシートまでも透明という徹底したシースルー様式だ。 その見た目通り『シースルーゴンドラ』という名が付いた乗り物だと知ったのは、ゴンドラが一周して降り場に着いてからの事である。 「下までスケスケですよこれっ」 言わなくても見れば分かる。ていうか微妙に卑猥な発言じゃないかそれ。 水上は内心でそう突っ込みつつ、ごくりと生唾を飲み込んだ。 ビルやマンションといった通常の高い場所で恐怖を感じないのは、柵や壁、床など絶対的に安心出来る構造に囲われているからだ。 だがこれは―――高所恐怖症じゃなくとも視覚から与えられるインパクトは恐れに直結する。 平静を装いつつ、透明の板でできたシートに腰掛けるも。 ただ透けているだけで強度に不足はないはずだと自身に言い聞かせるが、やはり心許ない気がしてしまう。 片や向かい合わせに座る瀬名は、あっちが三重か、こっちが岐阜かと外の河川や橋を眺め呟く。 次第に小さくなる建物を俯瞰で見られる事と、何よりもシースルー仕様にテンションを高ぶらせているらしく。 キラキラと目を輝かせる彼女は、恐怖を感じるどころか状況を大いに楽しんでいるようだ。 (意外に度胸据わってるんだな) 感心も抱かれるが、これで自分がビビってたら男がすたるだろと妙なプライドも沸き起こってしまう。 と、生理的な畏怖と胸中で格闘している水上に。 「…そっち…鷹洋さんの隣に座ってもいいですか…?」 瀬名がはにかみ、そっと尋ねた。
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