報告書1:ハレの日はあでやかに

7/60
1754人が本棚に入れています
本棚に追加
/251ページ
真冬の夜道に浮かぶヘッドライトは一つ。 闇に溶け込む漆黒のボディからは、エンジン独特の重低音が奏でられる。 風を切るように駆け抜ける渋滞知らずのバイクは、傍から見れば爽快感溢れる様だが、この時期のライダーにとっては痛みも伴う。 微風ですらライドすれば全身を叩きつける強風に変わり、もはや冷たいというよりも氷に刺されている感覚だ。 (…『焦って迫って嫌われないように』だ?! ) 脳裏にひとりでに蘇った保志沢の言葉に、星也はヘルメットの下で舌打ちした。 うるさい。とっくに分かってるそんな事。 今さら他人に言われずとも、焦りは禁物だと何度胸に刻んだか数えられないくらい、こっちは場数を踏んできたんだ。 苛立ちをぶつけるように、ハンドルを握り締める星也の手の力が強まった。 前方の信号が赤に切り替わったのが見えて、ふと我に返る。 鬱憤を募らせる自分が無性に馬鹿馬鹿しく思え、深く嘆息したところで信号待ちから解放されて、再び加速に入る。 ―――長期戦でもいい。 それでも彼女の支えになりたいと願い出たのは、他ならぬ自分だ。 男嫌いの彼女の心を溶かし、さらに自分を好いてもらうには長い時間を要するだろうと覚悟の上での告白だった。 だが思いの外、交際の承諾は早く訪れた。 その喜びも束の間、待ち構えていた新たな現実に翻弄されるとは、承諾の直後は露にも思わなかった。 短期に終わらせる事が出来たのは序章にしか過ぎず。 真の“長期戦”の幕開けはそれからだったのだから。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!