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コーヒーでも飲もうかとヤカンに火をかける。ふと、ドアポストに目をやると、何だか小さなビニール袋の様な物が目に入る。
「何だろう?」
手に取ってみると、半透明の袋の中に、何やら小さな筒状の物と、液体の入った小さなペットボトル、それに説明書の様な紙が入っているのが分かる。差出人は株式会社フリーダム製薬。全く身に覚えがない。よく見ると、小さな文字で「サンプル品在中」と書かれている。袋を開けてみると、小瓶が一つと「当社の新製品です。是非お試し下さいませ。」とだけ書かれた紙が出てきた。小さなガラス製のビンの中には、色の違う薬の様なものが3錠だけと、小さな紙切れが入っている。おそらく説明書であろう。友美はビンの蓋を開け説明書を見た。
「青色のサプリ…溜まった疲労感を解消します。黄色のサプリ…精神ストレスを軽減する効能があります。赤色のサプリ…次の日の為の活力を生む効果があります。※なお、このサプリは食欲を抑える効果も有り、ダイエットに最適です。※付属の専用水で飲んで下さい。専用の水以外では効果はありません。」
どうやら色によって効果が違う様だ。にしてもたったの3錠とは…。それに、フリーダム製薬なんて会社聞いた事がない。怪しい、怪しすぎる。友美は軽くため息をつき、そのままビンをテーブルの上に放置し、ヤカンのお湯でコーヒーを入れた。
ソファーにもたれかかり、コーヒーを口に含むと本の少し心が穏やかになった気がした。今日は休日。いろいろな「縛り」から唯一解放される日。こんな時間がずっと続けば良い。が、十数時間後にはまた仕事をする為に、あの職場に戻らなければならない。嫌味と罵声の飛び交う、あの牢獄に…。それを考えただけでうんざりした。静かな部屋に時計の秒針だけがコツコツと音をたてている。友美の安息の時間が少しずつ終わりに近づき、また職場に戻る時間が迫ってくる。友美はソファーに深くもたれ、ふうっと溜め息をついた。こんなストレスだらけの日常が、一体いつまで続くのか…。手に持ったコーヒーを一気に飲み干し、コップを洗おうと立ち上がった瞬間、大きな目眩に教われた。再びソファーに座り込んだ友美は、ある一点を凝視している。
『飲みたい…飲みたい…飲まなくちゃ…。』
焦りにも似た感情を覚える。身体中から冷や汗の様な物が出る。
『飲まなくちゃ…。』
友美の目にはあの怪しいサプリの入ったビンが映っている。
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