5話

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机とベットしかない殺風景な部屋で、僕はカッターナイフを握っていた。 机の椅子に座るのも、床に座るのも、なんとなく嫌で 仕方なくベットに腰かけて、ガーゼと包帯を用意する。 みんな出掛けてしまって家には誰もいなくて、僕一人が妙に広い家の中に存在していた。 そんな孤独を無理矢理遠ざけるようにカッターナイフを構えた。 左手首に押し当てて、軽く引く。 うっすらと血が滲んで、細い線が出来た。 今出来たばかりの新しい線の上に、もう一度カッターナイフを構え、押し付けて引く。 ポツポツと血の山が出来て、線が太くなった。 あんまり痛みはない。 でも、僕の周りにいる人にそのことを話しても誰も信じてくれない。 「痛くないわけがない。 だって、血が出てるんだから。」 本当に痛くないのに。 やってみなよとは言わないけれど、否定ばっかりしなくてもいいのにとも思う。 もう一度カッターナイフを構え、押し付けて、引く。 血だまりが出来て、線が開いた。 まるで、腕に口があるような。 口がうっすらと笑っていて、僕を馬鹿にしているみたいだ。 僕はオカシクなんかない。 いくつか新しい線を作って、溜まっていたモヤモヤと孤独感が和らいで、代わりに虚無感が僕を満たし始めたとき 机の上の携帯電話が震えた。 小学校からの友達からの電話。 「もしもし」 「あ、雪(ゆき)? 春(はる)だけど今大丈夫?」 「うん、大丈夫だよ」 それから2時間ほど、友達の愚痴を聞かされた。 彼氏と別れたいが、どうしたらいいのか分からない。 野球部の先輩がしつこく話しかけてくる。 そんなこと、男の僕に相談されても何とも言えないのに。 「あっ、もう2時間も話しちゃってたんだね 私これから出かけるからまた学校でね!」 「うん、またね」 機械のように感情のこもっていない返事を返してから、何か話している春を無視して電話を切った。 携帯電話のタッチパネルを操作して音楽を流す。 僕の大好きなロックバンドの曲、「DEAD OR ALIVE」。
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