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机とベットしかない殺風景な部屋で、僕はカッターナイフを握っていた。
机の椅子に座るのも、床に座るのも、なんとなく嫌で
仕方なくベットに腰かけて、ガーゼと包帯を用意する。
みんな出掛けてしまって家には誰もいなくて、僕一人が妙に広い家の中に存在していた。
そんな孤独を無理矢理遠ざけるようにカッターナイフを構えた。
左手首に押し当てて、軽く引く。
うっすらと血が滲んで、細い線が出来た。
今出来たばかりの新しい線の上に、もう一度カッターナイフを構え、押し付けて引く。
ポツポツと血の山が出来て、線が太くなった。
あんまり痛みはない。
でも、僕の周りにいる人にそのことを話しても誰も信じてくれない。
「痛くないわけがない。
だって、血が出てるんだから。」
本当に痛くないのに。
やってみなよとは言わないけれど、否定ばっかりしなくてもいいのにとも思う。
もう一度カッターナイフを構え、押し付けて、引く。
血だまりが出来て、線が開いた。
まるで、腕に口があるような。
口がうっすらと笑っていて、僕を馬鹿にしているみたいだ。
僕はオカシクなんかない。
いくつか新しい線を作って、溜まっていたモヤモヤと孤独感が和らいで、代わりに虚無感が僕を満たし始めたとき
机の上の携帯電話が震えた。
小学校からの友達からの電話。
「もしもし」
「あ、雪(ゆき)?
春(はる)だけど今大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
それから2時間ほど、友達の愚痴を聞かされた。
彼氏と別れたいが、どうしたらいいのか分からない。
野球部の先輩がしつこく話しかけてくる。
そんなこと、男の僕に相談されても何とも言えないのに。
「あっ、もう2時間も話しちゃってたんだね
私これから出かけるからまた学校でね!」
「うん、またね」
機械のように感情のこもっていない返事を返してから、何か話している春を無視して電話を切った。
携帯電話のタッチパネルを操作して音楽を流す。
僕の大好きなロックバンドの曲、「DEAD OR ALIVE」。
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