私達

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* 高校三年の冬、元旦。 年越しを家族そろって迎えた日の明け方に、父と母は私達に言った。 私達家族の中に血の繋がっている者はいない、と。 「夫婦」という意味でなら父と母の二人は血縁関係にあるけれど、私と彼はそれぞれが孤児と遺児で、この家に養子として引き取られたのだと。 そして私と彼は気づいてしまった。お互いに気付いたことを、知ってしまった。 私と彼は勘違いしていたのだと。 私と彼は互いに好き合っていたのでも、恋し合っていたのでも、ましてや愛し合っていたわけでもなかったのだと。 私と彼はお互いの中に自分を見つけ、ただ自己の存在を確立させるために、互いに互いの指先だけを白くなってしまうほど強く握り合っていただけなのだと。ただ、ただ、お互いに寄り添って依存しているだけなのだと。 父と母の言葉をきっかけに、私と彼のわずかな繋がりは抵抗する意味も理由も見つけられず、いとも簡単にほどけてしまった。 それからの私と彼の行動は顕著だった。見ている人からはさぞ滑稽に、ともすれば異様でもあったでしょう。 地元の公立大学に合格していた私と彼は進路を急変更し、私は西側の県外の公立大学に、彼は東側の県外の企業へと就職を果たした。 進路指導の先生方には大変な迷惑をかけてしまったけれど、そんなことは私の関知したことではない。 卒業して、育った家を出るその日まで、厳密にはその日以降も、私達は顔も合わせず、口を利くことなんてありえなかった。 私と彼はコンタクトを取ろうともしなかったし、必要とも思わなかったけれど、父と母には二人とも定期的に連絡を取っているらしく、「一人暮らしでも頑張っている」、「人間関係で少し苦労しているようなことを言っていたがそれはそれで楽しそうだった」など、電話をする度に彼の話をしてくるので、彼の方には私の話をしてくれているのだろうと安心して――そんな自分に本気で凹んだ。
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