私達

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* 家族と離れて暮らしてから何度目かの冬が来た。 元旦だというのにアパートから出ることもできないほどの高熱で、私は寝込んでしまった。卒業論文の提出がぎりぎりで間に合って、気が抜けてしまったのが原因だろう。 私と彼の事情で強引に進路を変更してしまった手前、学費を払ってもらっているので生活費など請求できるわけもなく、少しでも時間に余裕があればアルバイトをしていたことも体に負担を与えていたはずだ。 ……当然、遊んでいる暇は無く、友達は両手に収まる範囲だ。 その数少ない友達も、多くは県外から通学していて近隣にはいないし、携帯電話は「明けまして――」電話で基地局が例年通りパンクしているらしく不通、地元とを繋ぐ路線は雪で通行見合わせで助けも呼べず、心配してくれても様子を見に来てはもらえない。 高熱と空腹と脱水で意識が朦朧とする中、甲高い音が響いた。 枕元に人が立つまで、その音が玄関の開閉によるものだと気付けない私に、その人は開口一番で罵った。 「馬鹿野郎」と。 悲しいような、嬉しいような、それでいて絞り出すような、罵倒を受けた。 意識のはっきりしない中、私はその人が誰なのか、そもそも知人なのかどうかすらわからないまま看病され、あまつさえ一眠りしたというのだから、あまり治安の悪くない街だからとはいえ、私の危機意識の低さは底抜けだろうと思う。 懐かしい夢を見た。家族四人で机を囲んで食事をしている夢。もう二度と、座ることのない食卓を、夢見た。
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