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「う~ん…」
朝だ。窓が明るい。
「眠い…」
とは言うものの、布団から這い出る。
いつもなら二度寝しているところなのだが、何故か眠くなかった。ノロノロと台所に向かい、
「メシ…」
冷蔵庫を漁る。ふと、時計を見た。なけなしの金でやっと買うことができた、日付機能付きの電波時計だ。
「…」
思わずかじっていたパンが口から落ちた。
「ああぁ…」
時刻は、8時10分。
「あああぁ…」
日付は、4月8日。
「うわあぁぁぁぁぁ!!?」
こうして俺、影宮葉月(男だ)の意識は完全に覚醒することとなった。
最悪の状況で、だが。
「えーっと、待てよ…」
ボサボサの頭を抱えて部屋を歩き回る。
「つまりあれだ。これは…そう、悪い夢だ、うん」
とか言って歩き回っていたら
「…っぎゃぁぁぁ!?」
タンスに足の小指を打ちつけた。
「うごあぁぁ、ぬぐぐ、うおぉぉぉ…」
声という声も出せず、とんでもない痛みに悶絶する。
「うぅ、何で朝っぱらからこんな目に…」
やっとの思いで声を絞り出し、
「つーかこんなことしてる場合じゃない…」
俺が廊下に出て、玄関の前に着いた、その時だった。
ドアが開き、一人の女性が中に入って来た。
「ただいま~♪…あれ?葉月くん?」
えらく間延びした声がかけられ、気が抜けそうになってしまった。こんな絶望的状況に立たされていても、脱力してしまいそうな声音だ。
全くもって迷惑な話だ。悪気は無いのだろうが、こっちの事も考えて欲しい。
「し、霄…」
そう言って声の主ー俺の母親で今仕事から帰って来た、影宮霄を見る。もう一度言う、母親だ。
そして俺の名前がこんななのはこいつの影響だと思っている。恐らく嘘では無い。
「あ、そうだ。お土産買って来たから食べる?」
霄は茶菓子が入っているであろう箱を俺に差し出して来た。
「あ、じゃあ遠慮なく…」
貰おうとしてハッと我にかえる。
「ってそんなことしてる場合じゃないんだって!早く着替えて行かないと…て言うかさっきあれ?とか言って無かったか?」
軽いツッコミを入れたが当の本人は、
「あら…そう?残念、これおいしいのに~」
前者の感想しか言わなかった。
こんな会話をしていたらきりがない。急いで二階の自室に向かい、身支度を済ませる。
一年間最早すっかり馴染んだ制服に着替え、同じく一年間肩に引っ提げてきた鞄をいつものように引っ提げる。
「よしっ!」
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