~1章~ 不幸の獅子と最強の乙女

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「う~ん…」 朝だ。窓が明るい。 「眠い…」 とは言うものの、布団から這い出る。 いつもなら二度寝しているところなのだが、何故か眠くなかった。ノロノロと台所に向かい、 「メシ…」 冷蔵庫を漁る。ふと、時計を見た。なけなしの金でやっと買うことができた、日付機能付きの電波時計だ。 「…」 思わずかじっていたパンが口から落ちた。 「ああぁ…」 時刻は、8時10分。 「あああぁ…」 日付は、4月8日。 「うわあぁぁぁぁぁ!!?」 こうして俺、影宮葉月(男だ)の意識は完全に覚醒することとなった。 最悪の状況で、だが。 「えーっと、待てよ…」 ボサボサの頭を抱えて部屋を歩き回る。 「つまりあれだ。これは…そう、悪い夢だ、うん」 とか言って歩き回っていたら 「…っぎゃぁぁぁ!?」 タンスに足の小指を打ちつけた。 「うごあぁぁ、ぬぐぐ、うおぉぉぉ…」 声という声も出せず、とんでもない痛みに悶絶する。 「うぅ、何で朝っぱらからこんな目に…」 やっとの思いで声を絞り出し、 「つーかこんなことしてる場合じゃない…」 俺が廊下に出て、玄関の前に着いた、その時だった。 ドアが開き、一人の女性が中に入って来た。 「ただいま~♪…あれ?葉月くん?」 えらく間延びした声がかけられ、気が抜けそうになってしまった。こんな絶望的状況に立たされていても、脱力してしまいそうな声音だ。 全くもって迷惑な話だ。悪気は無いのだろうが、こっちの事も考えて欲しい。 「し、霄…」 そう言って声の主ー俺の母親で今仕事から帰って来た、影宮霄を見る。もう一度言う、母親だ。 そして俺の名前がこんななのはこいつの影響だと思っている。恐らく嘘では無い。 「あ、そうだ。お土産買って来たから食べる?」 霄は茶菓子が入っているであろう箱を俺に差し出して来た。 「あ、じゃあ遠慮なく…」 貰おうとしてハッと我にかえる。 「ってそんなことしてる場合じゃないんだって!早く着替えて行かないと…て言うかさっきあれ?とか言って無かったか?」 軽いツッコミを入れたが当の本人は、 「あら…そう?残念、これおいしいのに~」 前者の感想しか言わなかった。 こんな会話をしていたらきりがない。急いで二階の自室に向かい、身支度を済ませる。 一年間最早すっかり馴染んだ制服に着替え、同じく一年間肩に引っ提げてきた鞄をいつものように引っ提げる。 「よしっ!」
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