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「はぁ、はぁ」
辺りに広がる田園風景。農作業に精を出す人々の間を飛ぶような速さで2騎の馬が駆け抜けていった。
馬上にいるのは女性と子供。ミサとラピスである。迷いの森を抜けた二人は近くの街道宿にあった貸馬屋で馬を借り一路イグドラシルを目指したのだ。
森であった奇怪な現象。
死んでも死にきれない人々、その思い。
そして彼らを生への執着から解放した神木の力。
それらが指し示す1つの答えが、二人に帰路を急がせていた。
歪んだ魔力をもとに戻す
シラナイの説明からすると若干違う気もするが、二人が得た結論はそれであった。
死を受け入れられない【歪んだ思い】がこもって理から外れた動きをする魔力。その魔力で動く死体。シラナイは世界の仕組みからずれてしまった魔力を思いから解き放ち、魔力の流れを正常にすることができた。
これははからずもラピスが船上でユウと話した話を裏付ける結果となった。
「僕には……シラナイさんの力を借りて傀儡の呪縛を解くことができる」
その答えが今まで踏み出すことができなかったラピスの気持ちを変えた。
現状をどうにかしたいと思いつつ、何もできない。今までその鬱積した思いが彼女の行動を知らず知らず制限していた。しかし自分のやるべきことが見えた今、彼女の心と身体は解き放たれたかのように軽やかだった。
迷いの森の動く死体、そして傀儡兵……。自分にできることなどたかが知れている。でも、出来ることがある。ならばやりたい!
(天使様みたいに大きくないけど、僕も皆さんの為に出来ることをしたいです)
その思いに突き動かされて、ラピスは久方ぶりにイグドラシルへと帰還した。
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