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「少し前に信濃の守護小笠原長時様が、甲斐の武田晴信に攻め立てられ、信濃を追われ、景虎様を頼って越後にいらっしゃっているのは、竜也殿もご存じでありましょう。景虎様は少し前に関東管領殿に頼ってこられて、北条をお討ちになったばかりでいらっしゃる。それなのに、すぐに次は武田ときた。この日本国指折りの大名二人を敵にするのには渋っていらっしゃって、小笠原様の件はなかなかお動きにはならなかった。しかし……またしても武田めが動き出してな。攻め立てられた信濃の村上義清様が越後へたった今いらしたのだ。」
竜也は上杉謙信の伝記を熟知している。それ故一連の話を聞き、すぐに大体の状況を把握できた。
甲斐は現在の山梨県、信濃は長野県である。関東管領とは室町幕府が作った、偉い役職の人であり、
北条は、今の神奈川県を治めていた人である。
つまり、長野県を治めていた人が、隣国の山梨県の偉い人に攻められ、新潟県に逃げてきた。
少し前に、関東管領職の人を助け、神奈川の偉い人と戦ったばかりなのに、といった内容である。
信濃を武田が治めたら、隣国である越後も危うい。
そして何より景虎は正義感が強く、助けの要請を二つも断れないだろう。
これは……かの有名な、
「川中島の戦い……。」
竜也は小さく呟いた。
「竜也殿今なんと? 」
「いや……。」
確か第一回川中島の戦いは上杉方が武田を圧倒する形になるはずだ。(川中島の戦いとは、戦の名前。)
しかし景虎には上京の予定もあり、武田を壊滅的にする機会を仕方がなく手放したのだ。
きっとそのときは、川中島の戦いが五回も起こるなど誰が予想したのだろう。
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