第1章

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「なかなかやるな、いばらの妖精騎士。綺麗なだけじゃないらしい」 抑え切れぬくやしさを目もとに滲ませて、リーダー格の男は探るように少年を見た。 「例の物……いばらの妖精国のお宝は持っているのか?見たところ手ぶらなようだが……」 「ここにある」 静かに応えて、少年は胸の紀章にふれた。 細い指先がふれた瞬間、ピンクの薔薇の紀章がポウッと淡い光を放ち、純白の騎士の衣装から抜け出して、空中に浮かんだ。 目の前に浮かんだそれに少年が再びふれると、パアーッと眩い光が迸り、ピンクの薔薇は美しい小柄に変わった。 細身の小柄は、鞘も柄もピンクゴールドで、精緻な薔薇のレリーフが一面に施されている。 淡い光に包まれて空中に浮遊しているその神秘的な姿に、帝国の騎士団は声もなく視線を吸い寄せられていた。 「我がいばらの妖精王国に伝わるノワール・ロゼだ。どんな邪悪な妖精の呪いも解くことができる」 淡々とした口調で、少年は言葉を添えた。 「それはすごいな。か弱いいばらの妖精族にしては上等なお宝だ」 歪んだ笑みを口の端(は)に刻んで、リーダー格の男は負け惜しみのように吐き捨てた。 一瞬、切れ長の目に鋭い色を浮かべてリーダー格の男を射すくめたが、すぐに冷淡な表情に戻って、少年は冷やかに言い放った。 「これを帝国の王に届けるのが俺の任務だ。奪ってみろ。おまえたちにできるならな」
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