第2章

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いばらの妖精王国は大陸の北方、急峻な高台に位置している。 南側はエメラルドグリーンの海、北国独特の澄んだ大気が、より美しく水面(みなも)をきらめかせていた。 あまた存在する妖精王国の中でもかなり小さな国で、武力は無きに等しい。 個々の剣士の技量はすぐれているが、精鋭騎士の数が少ないのと、攻撃の魔法を使えないため、弱小妖精族の名に甘んじていた。 しかし、永きに渡り平和が続き、他国に攻め入られることもなかった。 国の大半を森と丘陵が占め、色とりどりの薔薇が季節を問わず、随所に咲き乱れていた。 いばらの妖精王国を統べるのは、ライアスの最愛の兄セレオス……聡明で美しく、温厚な若き王は、民の信頼と尊敬を一身に集めていた。 幼くして父母を亡くしたライアスは、5才年上の兄セレオスに育てられた。 惜しみのない愛情をあふれるほどその身に浴びて、ライアスは宝物のように大切に慈しまれて育った。 ライアスのことが可愛いくてたまらないと、セレオスの言動のすべてが……いとおし気なその眼差しがはっきりと告げていた。 ライアスもまた、誰よりも兄を慕い、ほとんどの時間をセレオスとともに過ごしていた。
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