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祖国を取るか、弟を取るか。
究極の選択だった。
だが、一瞬の迷いもなく、セレオスは即座に拒否した。
「断る!ライアスは渡しません」
決然と言い放ったセレオスの瞳には、抑え切れぬ怒りが滲んでいた。
帝王が、皮肉気に口の端(は)を吊りあげる。
「いいのか?いばらの妖精王国が滅ぼされても」
「攻め入りたいなら、どうぞご自由になさってください。我々も死力を尽くして闘います」
たおやかな美貌に覚悟の色を浮かべて、セレオスはきっぱりと言った。
既に、死を覚悟している……そんな表情だった。
アスラン帝国と闘って、勝てるわけがない。
セレオスとて、それは重々承知しているはずだった。
「闘いましょう、セレオスさまっ!!」
固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた重臣たちが、口々に賛同の意を表明した。
彼らの思いに……迷わず自分を選んでくれた兄に、ライアスは胸が熱くなった。
でも、だからこそ…………
「兄上。僕、アスラン帝国に参ります」
セレオスの脇をすり抜けて、ライアスは帝王の前に出た。
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