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「何を言う、ライアス!!そんなことは許さないっ!!」
ライアスの肩をつかんで荒々しく自分の方を向かせ、セレオスは激しい口調で叫んだ。
その指が、肩に食い込んで痛い。
こんなにも取り乱し、激昂した兄を、ライアスは初めて見た。
「僕は大丈夫です、兄上。心配なさらないでください」
しっかり兄の目をみつめ返し、ライアスは静かに言った。
「何が大丈夫なものかっ!自分が何を言ってるのか、わかっているのかっ!?おまえを帝国に差し出したりはしないっ!!命尽きても、おまえを守るために俺は闘うっ!!」
火を吹くような眼差しでライアスを射すくめ、セレオスは激情をぶつけた。
激昂のあまり、公の場であることも忘れ、「私」ではなく「俺」になっていた。
いや、ライアスとふたりきりの時でも、セレオスは自分を「私」と言う。
そのことひとつとってみても、セレオスがいかに取り乱しているかがわかった。
弟を想うあまり、セレオスは我を失っていた。
兄がいかに深く自分を愛しているかを改めて思い知り、ライアスは涙が滲みそうになった。
「兄上」
瞳を潤ませる代わりに、ライアスは小さく微笑した。
「いばらの妖精王国には二百万の民がいます。僕ひとりと引き換えに、二百万人の命を犠牲になさるおつもりですか」
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