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セレオスがぐっと言葉に詰まったのは、しかし、ほんの一瞬だった。
苦し気な表情でちらりと重臣たちに視線を走らせてから、セレオスはこみあげる激情を抑えかねたようにひしとライアスを抱きしめた。
「それでもだ、ライアス!!身勝手な王とそしられてもいい!俺は……俺は祖国より国の民より自分の命より、おまえが大事でいとおしい!!おまえをむざむざ苦境に堕としたりはしないっ!!たとえ、二百万の民の命と引き換えにしても、おまえを帝国には渡さぬっ!!」
「兄上…………」
予想以上に激しい、セレオスの狂おしいまでの想いに、ライアスは圧倒された。
心地いい兄のぬくもりに包まれながら、長い睫をしばたたかせて小さくあえぐ。
「この命に代えてでも、おまえは俺が守る」
ライアスの柔らかなブロンドに顔を埋め、セレオスは熱い口調でささやいた。
その体が、自分を抱きしめる腕がかすかに震えていることに気づき、ライアスは兄の苦悩の深さを知った。
自分がアスラン帝国に行きたいと言い張れば、兄をさらに苦しめるだけかも知れない。
でも…………
「お願いです、兄上。僕のわがままを許してください。僕は……僕はどうしても、アスラン帝国に行きたいんです」
兄の腕をふりほどこうと、ライアスは弱々しくもがいた。
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