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公立入試まで一週間。
…とは思えないほど、その日の授業は騒がしかった。
別にその日だけではない。いつものことだ。
公立とはいえ、校風やその他諸々の要素によっては学校間の学力差が生まれてしまう。
上記の様子からも分かるように、この学校の生徒は、お世辞にも賢いとは言い難い。
先生も特に入試前だからとピリピリした様子がないのも、原因の一つだろう。
キーン……
チャイムが鳴り出した瞬間教室の喧騒はより大きくなり、途中で音は掻き消える。
それもやはり、いつものことだ。
いつもの、こと。でももうすぐ、それはいつものことではなくなる。
珀斗 舞智はらしくもなく感傷に浸った。彼女は他府県の私立に行くので、中学の同級生と会うのはあと少しだ。
「はぁ~くぅ~」
そんな感傷をまるごと吹き飛ばすように、何とも間抜けな声が響いた。
「私は舞智です、はくなんて名前 じゃないですー」
「苗字には入ってるからいーの」
「よくないわ」
「今日の給食タルトやで!」
「よおっしゃ、元気出た!」
「ひなに言ったら、めっちゃ喜ぶやろうな~。早く言いにいこう!」
木霊 日向が、北守 早綾香の方へ走って行く。
「さーやー、今日タルトやって!」
「ほんまに?マジで?やったぁ~!
でも、もう給食のタルトも最後やな…味わって食べななぁ…」
さやも、寂しいと思っているのだろうか。給食が終わり、学校も終わることを。
なんて、自分勝手に都合よく解釈してみるあたり、らしくないと思う。ほんと、らしくない。
多分ひなは、寂しがるだろうな。
気が弱いけれど、とてもストレートに感情を表す。それが、舞智には羨ましく思える。素直になるのは、とても難しいから。
「まちー、早く用意してよ、さやのためにも自分のためにも」
「は?」
「給食当番」
「あ」
「食べる時間減ったら、二人ともタルト食べれへんで。確実に」
「それは困る!早くしてー」
「二人も手伝ってよ~、どうせ班の人やってくれへんし」
「まぁまぁ、そんな怒らんと。
うちらも手伝うからさぁ」
「やった!よし、ちゃっちゃとやって早よタルト食べよっと」
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