序章

15/16
前へ
/48ページ
次へ
レイスはそれを追おうとする。 が…目の前に何かがあって近付く事ができない。 一方、ルナティの頭はレイスのことで一杯だった。 ──振り返るな。前を向け。振り返ったらそれで終わりだ。 「母さんッ!」 レイスの声がきこえる。 ──立ち止まるな。進め。 「まって!!!僕を一人にしないで!」 レイスが見えない壁をドンドンと叩く。 ──レイス…!!もうやめて…。母さん戦えなくなっちゃう……。 一度立ち止まってみる。 ──私は今何をしているんだろうか。 まだ9才の息子を置き去りにしようとしている。 この時点で私は母親失格かもしれない。 それでも……これが終われば、私がどうにかなってしまっても、レイスだけは…幸せになれるかもしれない。 母親はその『希望』にかけた。 「スリープ。」 母親がそう呟いた。 ──レイスのことは街からこの森に逃げた人たちに任せるしかない…。 母親は胃がネジ切れそうな感覚がした。 「母さ…」 グニャリ──と、レイスの視界が眩む。 耐えようのない、猛烈な睡魔が襲いかかってくる。 「なん…だ…これ……」 声にならない。 叫ぶことが出来ない。 「か…あ……さ……」 段々視界が暗くなってゆく。 そして、母親も見えなくなってゆく… ここでレイスの意識がプツリと途絶えた。 ───「ごめんなさい。レイス。」 母親のそんな言葉が聞こえた気がした。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加